Samples設定の深掘り (Advanced: Spatial vs. Temporal)
このページは、「レシピ通りにやってもうまくいかない」 方や、Epic Games公式チュートリアルとの矛盾に気づいた方に向けた上級者向けガイドです。
このページを読むべき人
- ✅ レンダリング設定の極意 を試したが、PCがクラッシュする
- ✅ Movie Render Queue の設定を本格的に理解したい
- ✅ Epic Games公式チュートリアル(Lumen向け)とR.Design(Path Tracing向け)の設定の違いを知りたい
- ✅ 「Spatial 64 × Temporal 32」と「Spatial 2048 × Temporal 1」の違いを理解したい
初めての方へ
まだ基本的なレシピを試していない方は、先に レンダリング設定の極意 をお読みください。 このページは、そのレシピを「なぜそうなのか?」という視点で深掘りします。
1. よくある混乱:Epic公式とR.Designの設定が違う理由
問題の本質
あなたが Epic Games公式チュートリアル で Movie Render Queue について学んだ場合、こう書いてあったはずです。
「Temporal Sample Count は低く保ち(1-2)、Spatial Samples を上げてアンチエイリアスを改善しましょう」
一方、R.Design Wiki では「Spatial 64 × Temporal 32」を推奨しています。
これは矛盾ではありません。 使っている技術が違うからです。
| 対象 | 技術 | Temporal Samples の役割 |
|---|---|---|
| Epic公式チュートリアル | Lumen / Rasterization (標準的なリアルタイムCG) | モーションブラー用 動きのある映像で残像効果を作る。 静止画では不要なので低く保つ。 |
| R.Design(本Wiki) | Path Tracing (物理ベースのフォトリアル) | ノイズ削減用 高ければ高いほど、砂嵐のようなノイズが消える。 静止画でも必須。 |
結論
- Lumenで映像制作 → Temporal は 1-2 が正解(Epic公式が正しい)
- Path Tracingで静止画 → Temporal は 16-32 が正解(R.Design Wikiが正しい)
あなたがどちらの技術を使っているかで、ベストプラクティスは正反対になります。
2. Path Tracingにおける「Total Samples」の本質
Path Tracingでは、以下の計算式が画質を決定します。
Spatial Samples × Temporal Samples = Total SamplesTotal Samples とは?
「1ピクセルあたり、何回光の跳ね返りを計算するか」 の総回数です。
| Total Samples | 結果 |
|---|---|
| 64 | 砂嵐のようなノイズだらけ。実用不可。 |
| 256 | デノイザーONなら何とか見られる。 |
| 512 | デノイザーONで実用レベル。標準的なフォトリアル。 |
| 1024 | デノイザーOFFでも使える。質感が綺麗。 |
| 2048 | デノイザーOFF推奨。プロの最高画質。 |
| 4096+ | 映画レベル。8Kや特殊な照明で使用。 |
では、なぜ Spatial と Temporal に分けるのか?
理論的には、以下の2つは**同じ Total Samples(2048)**になります。
- A案: Spatial
2048× Temporal1= 2048 - B案: Spatial
64× Temporal32= 2048
しかし、GPU への負荷のかかり方が全く違います。
3. GPU安定性:なぜTemporalで分割すべきか
A案(Spatial 高 / Temporal 低)の危険性
Spatial: 2048
Temporal: 1GPUの動き:
- 1フレームで、1ピクセルあたり 2048本の光線 を計算しようとする
- 瞬間的に超高負荷 がかかる
- GPUが「応答なし」になり、TDR(Timeout Detection and Recovery) が発動
- 画面が真っ黒になり、「ドライバーが停止しましたが、正常に回復しました」エラー
- 最悪の場合、レンダリングが中断されるか、PCがフリーズ
TDR クラッシュとは?
Windowsは、GPUが2秒以上応答しないと「フリーズした」と判断し、強制的にドライバーを再起動します。 これが TDR(Timeout Detection and Recovery) です。
高負荷なPath Tracingでは、このタイムアウトに引っかかりやすくなります。
B案(Spatial 低 / Temporal 高)の安定性
Spatial: 64
Temporal: 32GPUの動き:
- 1フレームで、1ピクセルあたり 64本の光線 を計算(軽い)
- 1フレーム完了 → 次のフレームでまた64本計算
- これを 32回繰り返す
- 最終的に Total 2048 サンプルを達成
- 各フレームの負荷が分散されるため、TDRが発生しない
Temporal分割のメリット
- GPU負荷を「小分け」にして、クラッシュを防ぐ
- レンダリング時間は同じだが、安定性が圧倒的に高い
- VRAM 8GB以下のPCでは、この分割が生命線になる
4. 例外ケース:動きがあるシーン(風・カメラモーション)
ここまでの話は 「完全に静止したシーン」 を前提にしています。 もし以下のような動きがある場合、設定を変える必要があります。
ケースA: 木の葉が風で揺れている
R.Designで風の設定を有効にしている場合、高い Temporal Samples は 「モーションブラー」 として機能してしまいます。
結果:
- 木の葉がブレて、ぼやける
- 「写真のような鮮明さ」が失われる
対策:
Spatial: 1024 (または 2048)
Temporal: 1注意点:
- GPUがクラッシュする可能性が高まる
- クラッシュする場合は、Spatial を 512 に下げる
- または、風をOFFにして静止画として撮影する(推奨)
ケースB: カメラがゆっくり動いている
動画でカメラがスライドするような演出の場合、同様に Temporal を下げる必要があります。
5. 設定診断表:こういう時はこうする
静止画(風なし、カメラ固定)
| VRAM | GPU | Spatial | Temporal | Total | Denoiser | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 6GB | RTX 3060 | 32 | 16 | 512 | ON | 標準的なバランス設定。安定性重視。 |
| 8GB | RTX 4060 | 64 | 16 | 1024 | ON/OFF | デノイザーOFFでも綺麗。 |
| 12GB+ | RTX 5070 | 64 | 32 | 2048 | OFF | プロの最高画質。Temporal分割で安定。 |
動画(風あり、カメラ動く)
| VRAM | GPU | Spatial | Temporal | Total | Denoiser | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 6GB | RTX 3060 | 256 | 1 | 256 | ON | 動きをブラーさせない。軽量設定。 |
| 8GB | RTX 4060 | 512 | 1 | 512 | ON | デノイザーでノイズをカバー。 |
| 12GB+ | RTX 5070 | 1024 | 1 | 1024 | OFF | クラッシュに注意。テスト必須。 |
動画の場合の注意
Temporal を 1 にすると、クラッシュのリスクが上がります。 必ず短い区間(10秒程度)でテストレンダリングしてから、本番に臨んでください。
6. トラブルシューティング:よくある質問
Q1: レシピ通りにやっても、真っ黒な画面になる
原因: TDRクラッシュが発生しています。
対策:
- Spatial を半分に下げる(例: 64 → 32)
- Temporal はそのまま維持(例: 32)
- Total Samples は減るが、安定性を優先
Q2: Epic公式の設定(Temporal 1-2)でやったら、ノイズだらけになった
原因: Path Tracingでは Temporal がノイズ削減に必須です。
対策:
- Temporal を 16 以上に上げる
- または Spatial を 1024+ にする(ただしクラッシュリスクあり)
Q3: Spatial 2048 × Temporal 1 でも安定している。これは正解?
回答: お使いのGPUが非常に強力(VRAM 16GB+、冷却良好)な場合、それでも動作します。 ただし、以下のデメリットがあります。
- 長時間レンダリングで突然クラッシュする可能性
- 他のアプリケーション(Chrome等)を同時に開いていると不安定に
推奨: 64 × 32 に変更しても画質は同じなので、安全策として分割をお勧めします。
まとめ:Samplesの哲学
| 要素 | 役割 | 調整方針 |
|---|---|---|
| Spatial Samples | 1フレームあたりの計算密度 | 高すぎるとTDRクラッシュ。VRAM容量に応じて調整。 |
| Temporal Samples | 負荷の分散回数 | 高いほど安定。ただし、動きがある場合はブラー発生。 |
| Total Samples | 最終的な画質 | 512で実用、1024で高品質、2048でプロ級。 |
プロの鉄則(再掲)
- 静止画(風なし): Spatial を抑えて、Temporal で Total を稼ぐ
- 動画(風あり): Temporal を 1 にして、Spatial で画質を確保
- クラッシュする: まず Spatial を半分に。それでもダメなら Denoiser ON
参考リンク
- Epic Games公式チュートリアル: Movie Render Queue
- レンダリング設定の極意 - 基本レシピ
- インテリア・夜景シーン - シーン別の設定戦略
- 動作が重い・クラッシュする - クラッシュのトラブルシューティング
- システム要件 - VRAM容量の確認